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「攻めのトヨタ」、ブラジルで覚醒

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ここ最近あちこちで語られているトヨタのブラジル市場への取り組みですが、この記事が今までで一番詳しい記事ですね。個人的にはどうなるのか非常に楽しみです。ただ、この記事を途中まで読んでいた限りだと、いよいよ攻めに転じたのかな、と思いきや、後半にある「小さく生んで大きく育てる方針」というコメントを見て、少々懸念が増してしまったりもしました、あくまで「攻め」ではなく、手堅い一歩だったんですね。。。戦略的には対極にあるような「大きく生んで大きく育てる方針」の韓国勢と太刀打ち出来るといいのですが…

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■「攻めのトヨタ」、ブラジルで覚醒

新興国を攻めきれないでいたトヨタ自動車が、ブラジルで反撃の狼煙を上げた。現地生産の小型車「エティオス」で手薄だった中間層を開拓。シェア上位入りを狙う。欧州危機さなかの攻勢は、名実ともに自動車世界一となれるかの試金石となる。

 「正直、これまでは『待ち』の姿勢だった。だが、これからは我々から消費者に積極的にアプローチしていく」

 ブラジル最大の都市サンパウロ。同都市圏でトヨタ自動車販売店を展開するディーラー関係者は腹をくくる。

 トヨタの現地法人ブラジルトヨタは小型の世界戦略車「エティオス」の9月発売に向け、販売戦略の抜本的な見直しを決めた。ディーラーの販売員には、この新車に備えて改めて研修を実施。「エティオスの走行性能を実感してもらうため、消費者にできる限り試乗を勧めるよう教育している」とブラジルトヨタの中西俊一社長は話す。

 8月初めには、サンパウロの高級住宅街モルンビーにエティオスの実車を展示した販促イベント会場を開設した。発売予定のハッチバック型とセダン型の運転席に来場者を実際に座らせ、販売員がエティオスの基本性能を懇切丁寧に説明する。開設から5日間で1万人が来場したといい、積極的な消費者の呼び込みが奏功している。その場で先行予約する来場者もいる。

●「トヨタ=高級車」を自ら壊す

 トヨタにとってブラジルは、1958年に初めて本格的な海外生産を始めた国。悪路走行に優れた第1号車種「バンデランテ」は、40年以上生産を続けるロングセラーとなった。現在の主力車種は98年に現地生産を開始した「カローラ」。日本では大衆車のイメージだが、ブラジルでは高級車に入る。

 主な顧客は2億人近いブラジル総人口の1割強にすぎない、月収約21万円以上の富裕層。トヨタ系ディーラーはこれまで、消費者に幅広くアプローチするより、限られた富裕層にアフターサービスを含めた品質の高さをアピールすることを優先してきた。米系調査会社J・D・パワー・ド・ブラジルの2012年調査では、トヨタが現地でのブランド別顧客満足度で2年連続の首位だ。

 だが、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の一角として経済発展を遂げるにつれ、ブラジルでは月収約5万~21万円の中間所得層が拡大。現在では人口の半分以上を占める。自動車市場でも中間層が対象の小型車が全体の6割を占めるに至ったが、対象車種を持たないトヨタは後手を踏んでいた。

 今年1~7月の新車販売シェアを見ても、小型車が強い伊フィアットと独フォルクスワーゲン(VW)が各2割以上を占める一方、トヨタは3%に満たない。ブラジルでは2014年のサッカー・ワールドカップ(W杯)、2016年の五輪開催に向け、内需拡大が期待されている。米調査会社IHSオートモーティブは、2017年には販売台数が約470万台に増え、日本市場を抜くと予測。そして、市場拡大の先導役は今後も中間層であることは間違いない。

 つまり、「トヨタ=高級車」の地位に安住していては市場でどんどん埋没していく。この悪い流れを断ち切る切り札が、エティオスなのだ。顧客は中間層、特に初めてクルマを買う若者に絞った。だからこそ、販促、営業手法を根本的に見直し、「守り」から「攻め」への方針転換を明確にした。

●「真のブラジル国民車に育てる」

 中間層を攻め落とすトヨタの決意は、生産体制からもうかがえる。来月、6億ドル(約470億円)を投じたサンパウロ州ソロカバ市のエティオス量産工場が稼働。さらに、豊田章男社長は8日、ブラジルのジルマ・ルセフ大統領と会談し、同州にエンジン工場も建設すると表明した。2015年後半に始めるエンジンの現地生産によって、部品の現地調達率は85%まで高まる。

 翌9日、豊田社長はソロカバ工場の開所式で「エティオスを真のブラジル国民車に育てる」と力を込めた。ブラジルトヨタの中西社長は「10年以内にブラジル市場でのメーンプレーヤーを目指す」とさらに強気だった。

 トヨタ関係者は、ライバルとなるVWなどの小型車と比べ、エティオスが燃費と走行性能の両面で勝っているとの自負がある。それだけではない。ブラジルトヨタ幹部は「当地のニーズを取り込みながら、先行するインド向けなどのエティオスより進化させた」と胸を張る。具体的には、ブラジル人は走行時の雑音をことのほか嫌うため、室内に響くエンジン音を最大限抑制し、走行安定性も高めた。

 ブラジルの自動車市場の特殊性も、トヨタに味方する可能性がある。

 自動車関連税が重く、税金が車体価格の約4割に達するのだ。エティオスの想定価格は3万5000~4万8000レアル(約135万~185万円)、カローラも現地では7万レアル(約270万円)前後が主流なのはこのためで、所得水準に比べてかなり割高となる。

 この結果、少しでも価格を抑えようと「VWなどはコストを下げるために旧式の生産ラインを使い続けている」(自動車部品メーカー幹部)という。ソロカバ工場は最新の生産ラインなので当然、品質でリードできる。さらに、お家芸のカイゼンで生産コストを引き下げ、ライバル車との価格差を埋めていけば、ブラジルでのエティオスの競争力は大きく向上するわけだ。

 ソロカバ工場の従業員は、カローラを生産するインダイアツーバ工場で研修を繰り返し、インダイアツーバから現場のリーダー格も派遣。人材面でも万全の体制を敷いた。

●リーマン前後の中国に酷似

 だが、この時期にブラジルで打って出るリスクは大きい。

 ブラジルの新車販売は足元でこそ好調だが、これは自動車関連の税率軽減策の効果が大きい。しかも軽減策は8月末で打ち切られる方向で、9月発売のエティオスには適用されない見通し。税率軽減策で需要が先食いされた中での、厳しい船出を余儀なくされそうだ。

 また、ブラジルの実質GDP(国内総生産)伸び率は昨年2.7%にとどまり、今年は2%を切るとの予想が多い。景気鈍化で自動車ローンの延滞率は上昇し、金融機関は新規融資に慎重だ。歴史的な背景から欧州、特にスペインの金融機関の融資残高も多く、欧州危機の動向次第では信用収縮が一気に進みかねない。

 実際、米ゼネラル・モーターズはブラジル工場の人員削減に踏み切った。

 これまでのトヨタなら、短期的なリスク要因に目を向けるあまり、市場を攻めきれなかったかもしれない。

 その典型例が中国だ。

 IHSオートモーティブによると、トヨタは2008年に中国でのシェアを7%近くまで引き上げたが、リーマンショックによる中国市場の変調と、トヨタ自身の業績悪化で攻めの手を緩め、シェアは5%台に低下。韓国・現代自動車などの逆転を許した。直後の上海万博などによって景気はすぐに回復し、自動車販売が力強く伸びたのだ。

 数年内にW杯と五輪を控えるブラジルは、当時の中国と酷似する。中国での勝ち組、現代自もトヨタと同じサンパウロ州内で、今秋の稼働を目標に小型車工場を建設中。景気減速の影響が多少出ようとも、シェア上位の欧州勢がより厳しい環境であることを考えると、下位メーカーが巻き返すにはこのタイミングで打って出るしかない。

 もっとも、トヨタが果敢にリスクを取るようになったのは、単純に経営のリスク許容度を引き上げたからではない。もう1つのリーマンショックの教訓がトヨタに自信を与えている。

●「攻め」の裏に固定費の徹底管理

 リーマン前のトヨタは業容拡大で固定費が膨張した結果、需要急減に対応できず、2008年度に4600億円もの営業赤字を計上した。それ以降、全社的に固定費の抑制を徹底している。

 そして、その効果が出始めた。3日発表した4~6月期の営業損益は3531億円の黒字(前年同期は1079億円の赤字)とV字回復を果たし、今年度1兆円の営業利益計画の射程を早くもとらえた。固定費管理の徹底によって、自動車市場が低迷する欧州でも34億円の営業利益を確保できた。アジアでは1015億円と前年同期から約7割も営業利益を伸ばした。

 固定費管理の徹底は、ブラジルも例外ではない。

 エティオスを量産するソロカバ工場では、当初の年間生産能力を7万台と控えめに設定した。ソロカバ工場は370万平方メートルの敷地面積に対して、現在の建物面積は10万平方メートル以下。拡張余地を大きく持ちつつも、「小さく生んで大きく育てる方針」(伊地知隆彦・取締役)を貫く。

 こうすることで「市場が変調しても、損益への影響を最小限に抑えられる」(伊地知取締役)からだ。自らを過信せず、収益の下振れ余地を極力減らしているからこそ、短期的なリスクがある市場にも思い切って出られるようになった。

 トヨタは4~6月期決算発表と同時に、2012年のグローバル生産台数計画を引き上げ、世界の自動車メーカーで初となる1000万台超とした。だが、その規模を達成し、さらに拡大するには、これまで苦手としてきた新興国で利益を伴う形でシェアを高める必要がある。ブラジルで新興国攻略の新たな方程式を手に入れることが、名実ともに世界最強の自動車メーカーになるための条件となりそうだ。

日経ビジネス 2012年8月20日号12ページ
-「攻めのトヨタ」、ブラジルで覚醒- より

http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20120817/235736/