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ブラジルの奇跡、事業性のある再エネ産業を実現 バイオマスの主役、輸送用バイオ燃料

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おぉー、なんともボリューミーな記事…笑 ブラジルのサトウキビから作られるバイオ燃料、バイオエタノールに関するお話。さすがバイオエタノール先進国だけありますね^^

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■ブラジルの奇跡、事業性のある再エネ産業を実現 バイオマスの主役、輸送用バイオ燃料

 再生可能エネルギーは、その重要性から電力、熱、燃料を問わず積極的に推進されている。しかし、そのほとんどは既存エネルギーに比べてコストが高く、政府から助成を受けている。将来的には技術進歩や原油高などにより格差は解消していくことになろうが、現状では社会が支えている構図である。しかし、既に助成なしで経済的に既存燃料と伍しているものがある。ブラジルのサトウキビ由来のバイオエタノールである。今回は、この奇跡に迫る。

●40年に及ぶ開発、エネルギー・セキュリティが背景

 筆者は、2008年の10月にバイオエタノール事業の調査でブラジルを訪問した。その際、ガドリンスタンド(SS)の店頭価格がアルコール(エタノール)の方がガソリンよりもかなり低いこと、エタノール製造工場が巨大で残渣であるバガスを燃料とするコジェネプラント建設が進んでいることに強い衝撃を受けた(資料1)。

 政策支援を前提としない再生可能エネルギー事業が実現できることを実感したのである。これは、400年を超えるサトウキビの開発、40年におよびエタノール製造の開発を地道に一貫して続けてきた賜物である。現状、430のエタノール工場、7万のサトウキビ生産者、120万人の直接雇用、480億ドルの年商、150億ドルの輸出、16%の国内1次エネルギーシエアを誇る主要産業に成長している。

 ブラジルがエタノール(アルコール)にかかわったのは、石油を買える経済力がなかったからである。同国は沖合いの海に広大な油田を有する資源大国であるが、開発できることが分ったのは比較的最近である。特に石油危機後は購入が難しくなり、最重要国策としてエタノールの開発に注力したのである。この姿勢は、その後石油価格が安定しても揺るぐことなく一貫してとられてきた(資料2)。また、エタノ-ルだけで走るエタノール自動車の生産への助成が石油危機後に始まっている。

資料2.サトウキビ、砂糖、エタノ-ル生産の推移

●最重要作物のサトウキビを利用

 どうしてサトウキビなのか。それは、ブラジルにとり、砂糖は最も重要な産業の1つであり、得意分野であり、各種ノウハウや人材、インフラが整っていたからである。ブラジルにポルトガル人がサトウキビを伝えたのは400年以上前である。現在、同国の砂糖生産は世界の25%、輸出量では50%を占める。地理的にも、十二分に拡張の余地がある。

 アルコールは、でんぷんを酵素で糖化したのち、それを酵母菌にてアルコール発酵させ、蒸留・脱水して製造する。サトウキビの場合は、発酵から始まるので1つの工程を省略できることになる。ブラジルの飲用アルコールの代表はサトウキビを原料とするビンガであるが、これは45%の濃度である。

 エタノール製造工程を、もう少し詳しくみるとサトウキビの搬入、せん断、圧搾、洗浄、分離を経て黒砂糖ができ、これから粗糖と糖蜜に分かれる。糖蜜はエタノ-ル工程に入り、発酵、蒸留、脱水を経て出荷となる。これは基本的に焼酎製造工程と同じである。サトウキビ由来の蒸留酒は、一般にラム酒に分類されるが、ビンガもその一種である。

 燃料用はさらにアルコール濃度を高める。ガソリンと直接混合するための純アルコール(ブラジルではガソリンに分類)は99.5%、輸送用エタノールは93%である。こうした各工程を40年かけて改良してきた結果、圧倒的な効率性を実現できたのである(資料3)。大規模施設建設によるスケールメリットもある。

資料3.バイオエタノールの効率性比較

●1つの工程で砂糖、エタノール、電力を産出

 副産物や残渣の利用技術も開発してきている。蒸留残渣液は肥料としても利用される。何といっても大量に発生する搾りかす(バガス)の利用である。サトウキビは木質であるリグニンの割合が比較的高く燃焼エネルギーは大きい。従来はボイラーで燃やして蒸気を発生させ、工程用の動力として使っていた。最近は、発電設備を併設して電力も供給するようになった。大規模コジェネ設備の導入が、さらなる合理化や経済性増強の切り札になっている(資料4)。既存設備では、まだその多くが旧式ボイラーのままであり、コジェネ転換の余地は非常に大きい。

 大規模工場でコジェネを設置した場合、自家消費分の電力は4分の1程度で、4分の3は電力会社に売電でき、収益性が高まる。エネルギー需給全体でみても、バガス由来の発電に対する期待は大きい。バイオマス発電(この大半はバガス発電)の割合は2005年の3.2%から2009年には4.7%に高まった。同国のサトウキビ産業協会(UNICA:Brazilian Sugarcane Industry Association)は、バイオマスの発電の割合は2020年までに18%までに高まるとしている。

 ブラジルのエタノール工場は、砂糖製造もかねている。1対1の割合が標準であり、5%程度シェアを変動させられ、市況に応じて生産割合を弾力的に変えることができる。砂糖とアルコールの2本柱に加えて、電力を第3の柱と考えている。

 それでも使い切れないバガスは、セルロース系エタノールや化成品の材料にする。食料との競合やバイオ燃料に対する根強い期待から、セルロース系、次世代技術の開発に大きな注目が集まっている。原料、微生物、技術など数え切れないほどのバリエーションがあるが、第一世代の延長線上にあるセルロース系(第二世代)は、スタート地点で圧倒的な優位にある、と考えられる。

 第一世代は、その国あるいは地域の最も重要な作物を利用することが多い。それは風土や生活習慣に合っているからであり、生産性の鍵を握る微生物なども適している。一般的にその原料による飲用アルコールも普及しており、既に多くの研究開発が行われている。また、第一世代のシステムに組み込まれることで、第二世代は収集・運搬などのシステムが利用できる。コストフリーで集められるので、経済性の前提が全く異なる。

●サトウキビの持つ新たな可能性「バイオテクノロジー」

 ブラジルは、品種改良を含め原料であるサトウキビの開発を長年にわたり行ってきた。地域の天候や土地に適したキビの開発によって、単位面積当たりの収量は飛躍的に増加している。特に、栽培可能な期間を拡大する効果が大きい。遺伝子組み換え技術の開発も進んでおり、2015年頃には商業生産が認可されると見込まれている。こうした研究の延長線上にセルロース・エタノールの研究が位置づけられる。

 筆者は2008年10月、サトウキビ改良研究会社であるカナビアリス社を訪問した。そこでは、エタノール時代に備えた未利用バガスの利用が研究の主要テーマの1つであった。バガスはセルロース、ヘミセルロース、リグニンからなるが、糖化に適しているのは前2者である。同社は、リグニンの割合の少ない品種開発を研究していた。これに成功すると、現状のエタノール収率は2倍になると試算していた。バガスは、発電用燃料として既に事業性を持つが、送電線の整備状況や輸送用燃料の需要動向、付加価値の高い化成品への展開などを考慮すると、関連産業発展の可能性は大きい。なお、カナビアリス社は、筆者の訪問直後に、米国の大手遺伝子研究開発会社であるモンサント社が買収した。

●フレックス車とプラグインハイブリッドの時代に

 政策支援も有効であった。ブラジルでは、ガソリンには20~25%の純粋アルコールの混合が義務付けられている。同国でガソリンといえばこの混合燃料のことである。混合割合は輸送燃料の需給状況や原油、砂糖、エタノール相場などを勘案して決められる。最近は、砂糖相場の上昇などで需給逼迫気味であり、混合比率は2010年に25%から20%に引き下げられている。

 同国では、ガソリンとエタノールを自由に混合できる自動車FFV(Flex Fuel Vehicle=フレックス車)が普及している。ガソリンスタンドでは、ガソリンのノズルとエタノールのノズルがあり、自由に給油できる。エタノールのカロリーはガソリンの7割程度であることから、ガソリン価格の7掛けとエタノール価格の比較をして、選択することになる。

 ブラジルのエネルギー政策、産業政策を見るうえで、FFVの位置づけは大きい。FFV開発の背景には、同国のエタノール政策に対応した自動車開発が必要だったことがある。エタノール専用車の弱点は、エタノ-ルが不足すると動かせないことであり、ガソリンと混合できることでその懸念はなくなる。

 エタノール生産増とコストの低下に伴い、FFVは急速に普及してきている。またFFVの普及に伴いエタノール生産に拍車がかかる。両者の相乗効果で拡大してきた。FFVは、2003年にフォルクスワーゲンが初めて市場投入して以来、爆発的に普及し、現在は自動車メーカー12社が90以上の車種を投入している。新車販売の9割、ストックでも5割に達する。また、人口増や所得向上に伴う新規購入増もあり、同国のエタノール需要は着実に増加している。2020年には5000万台を超える中でFFVは8割に達すると見込まれる(資料5)。

 なお、FFV技術は4輪車のみならず、2輪車でも開発されている。市場の80%以上を占めるホンダ、10%を占めるヤマハの日系企業は、2輪車FFVの開発を積極的に行っている。2009年に販売を始め、2010年で売り上げの45%程度のシェアを占めている。

資料5.ブラジルの走行車数の推移と見通し
-高まるFFVの割合-

 エネルギー安定供給や環境問題により、輸送用燃料としてのバイオ燃料は世界で普及していくだろう。自動車側もそれに対応することになる。現在は10%混合のE10が標準になっているが、バイオ燃料の割合が高まるにつれてFFV車が普及することになる。近いうちにプラグインハイブリッドFFVが世界のエコカーの代名詞になる、との見方もある。ブラジル発自動車革命ともいえよう。

●リーマンショック、天候不順などで生産は停滞

 こうした強みを持ち、死角がないように見えるブラジル・エタノールであるが、ここ数年大方の予想に反して、生産は停滞し、輸出が減り輸入も増加している(資料2)。関係者の間でも驚きであり、「unthinkable」との表現も目に付く。しかし、これは複数の要因が同時に起きたことによる一次的な現象と見ることができる。

 2008年にリーマンショックの影響を受け、新興国に大量に流れていた費金が引き上げられ、外資の撤退もあり、投資やインフラ整備にブレーキがかかった。サトウキビ農家には中小事業者も多く、貸し渋りも受けた。サトウキビの新規開発や植え替えが滞り、これがボディーブローのように効いた。植え替えが少し延びても差し当たり収穫はできることから、植え替えを後回しにする農家も出てきた。

 天候不順の影響も受けた。ここ2年ほど旱魃に見舞われ、また集中豪雨も発生した。砂糖の国際相場が上昇し、砂糖生産により多くを振り向けたことも大きい。インドの輸入増などにより砂糖の国際相場が二十数年振りの高騰をみた。こうした諸要因が重なった。

 しかし、同国の強みが損なわれたわけではなく、遠からず復活するという見方が大勢である。2012年に入り、原料生産が持ち直してきており、砂糖相場も軟化している。インフレ対策としてガソリン価格を抑える政策も近々緩和される予定であり、エタノール需要は再び伸び、投資も活発化すると見られている。9月4日にサンケイ会館で行われた国際シンポジウムで、日伯エタノールのベルナルド遠藤副社長は、「投資によって生産が回復し輸出余力も十分出てくる」と説明していた。

●熱帯雨林開発や食料競合の誤解

 一時、アマゾン熱帯雨林の不法伐採を引き起こしているとの批判もあった。これに対しては、広大なブラジルでは生態に影響を及ぼさずに開発できる土地が多い、と関係者は反論している。
(1)サトウキビは全土の1%を占めるに過ぎない
(2)エタノール生産にかかるものはその2分の1の0.5%である
(3)耕作地からアマゾンまでは膨大な遊休地が存在しそのほとんどが潅木地帯である
(4)乱開発防止のためサトウキビ生産適地を絞っても全体の7.5%まで開発が可能である--というのが反論の根拠である。

 ブラジル政府は、2009年に適切な土地利用制限策(アグロ・エコロジカル・ゾーニング)を打ち出し、ゾーニングの導入による管理をより具体化した。サトウキビを耕作できるエリアを国土の7.5%に相当する6470万haまでとした。「サトウキビ生産地域はアマゾン熱帯雨林地帯から2000~2500km離れており、その拡張が熱帯雨林を侵食することはない。その間は広大なセラードと呼ばれる灌木地帯が広がっているが、それよりもサトウキビの方がCO2吸収量は大きい」と説明している。

 ブラジルのルラ前大統領は、欧州発の新規開発によるアマゾンを含む自然破壊については、次のように反論した。「歴史的に森林破壊を繰り返し、森林の割合が異常に低くなった欧州から言われたくない。食糧危機の最大の要因は、補助金付き輸出で途上国の農業を破壊した欧米の農業政策にある」。

 また、ブラジルは次のようにも反論する。「耕作可能地の1.4%を利用することで5割のガソリンに代替できている。サトウキビ生産に適した国は新興国を主に100カ国に及び、主要原油生産国20カ国に比べて多く、ブラジルモデルは世界や地域のエネルギー安定供給に資する。国際連合食糧農業機関(FAO)によれば世界ではサトウキビ耕作適地の1割しか利用されていない」

●抜群の効率性を示す諸指標

 食料との競合問題や持続可能性の視点から、ビッグ2としてブラジルへの風当たりは強い。しかし、冷静にみると、その多くは過剰反応や根拠に乏しいものが多い。一方で、関係者のブラジル産エタノールに対する評価は高く期待は大きい。エネルギー・バランス、CO2バランスは、ほかに比べて明らかに良く、食料との競合やランドシフトも基本的に問題ないと考えられる。効率が高いのは、原料・生産・流通に及ぶ長期間にわたる研究開発のたまものである。サトウキビは多年草であり、一度植えると平均6年間は連続して収穫でき、肥料や水分は比較的少なくてすむ(資料3、6)。

資料6.エネルギー当りCO2排出量比較
(間接土地使用効果込み)

 ブラジル産エタノールの持続可能性指標に関して、米国環境省(EPA)は温室効果ガス削減効果を6割と高く評価しており、同国のバイオ燃料使用義務RFSの「次世代燃料」に認定している。高品質燃料として高く販売できる。米国内のサトウキビ関連事業を刺激するとともに、国内技術開発はブラジルの輸入価格を意識するようになる。

 一方、日本では、ブラジルでも新たにサトウキビ畑を開墾する場合は、温室効果ガス削減効果は5割に満たないとしている。これには多年草のメリットを織り込んでいないなどの指摘がある。

●巨大石油・穀物資本が資本投下

 ここ数年、リーマンショックの影響や天候不順を受けて、「unthinkable」なエタノールの生産停滞が続いているブラジルであるが、その間は、世界の巨大資本がブラジル・エタノール資本と提携(買収)する過程でもあった。世界のプロが可能性を認めている証左である。

 その象徴は、シェルによる、ブラジル最大のサトウキビ・エタノール事業者であるコサン社との提携である。川上から川下に至るプロセスまであるいは国際市場を視野に、2010年8月にジョイント・ベンチャーRaizenを設立する。年産220万キロリットルを5年間で500万キロリットルに拡大する。シェルの強みは、資金力と世界に張り巡らしたネットワークであるが、ブラジル内でも多数のサービス・ステーションを展開している。コサンの強みは、原料とエタノール製造を主とする上流・中流部門にあるが、流通部門の整備にも注力してきている。

 また、シェルは、Iogen社、Codexis社といった著名な微生物開発会社と提携するなど、次世代セルロース系燃料の技術開発に注力してきた。エタノール工場から出るバガスは、生産プロセスのなかで自然に収集される。シェルは、これまで培った技術を適用し来るべきセルロース系燃料時代を先行する絶好の機会を得ることになる。

 BPは、やはり2011年4月に大手砂糖・エタノールメーカーであるCNAAを買収した。年産180万キロリットルの規模である。また、穀物メジャーであるADM、Bunge、Cargill、Dreyfusなどが、相次いで参入している。エネルギー市場へ参入する絶好の機会と捉えている。今後も米国、ブラジルを主に市場は拡大していくと読んでおり、生産余力の大きいブラジルに足場を築いているのだ。

 次回は、日本国内のバイオ燃料情勢を解説する。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120918/236925/