ブラジルニュース アペルトジマオン|ブラジル経済・ビジネス・文化・生活・サッカー・音楽・旅行等、ブラジルニュースを収集・発信

米国からブラジルを統括する愚 巨大消費市場のラブコールを袖にする日本

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • このエントリーをはてなブックマークに追加




記事の終わりに出てくる「共に学ぶパートナーとして、共に歩む覚悟」というスタンス、なんだかこれはとても大事だと思いますね。結局は人対人ですもんね。

—————————————————————————————————
■米国からブラジルを統括する愚 巨大消費市場のラブコールを袖にする日本

 ブラジルの中心都市サンパウロ。ここには世界最大といわれる日本人街「リベルダージ」がある。週末には屋台が並び、焼きソバやたこ焼きまで売っている。まるで日本のお祭りの縁日のような光景だ。屋台も日本でみかけるものと全く同じだ。こんな街は世界で見たことがない。

●中華街風の日本人街

 ただ、しばらく歩くと、なんとなく不思議な感覚がしてくる。「日本人街」と呼ばれているものの、むしろ横浜の中華街のようなイメージなのだ。よくよく見ると売っているものは日本っぽいが、何かが違う。実際、日本語もなかなか通じない。 ガイドブックに載っていた日本人街のイメージとは異なっていた。

 ペトロブラス前日本副代表で、国際協力銀行元リオデジャネイロ首席駐在員の相川武利氏はこう語る。「日系移民の所得は二分化している。富裕層の日系ブラジル人は郊外へと移り、貧困層はもはや日系移民という姿もなく、都市に住み、普通のブラジル人となっている。確かに、日本人街なので、売っているものは日本のものが多い。ただ、いまでは多くの商店が中国資本へと変わってきている。最近では、日本が導入した仕事のやり方を華僑がブラッシュアップするというユニークな構造が確立されつつある。しかしこうした構造の変化はあっても、東洋的な商売のやり方が受けることは事実だ」。

 東洋的な細やかな商売の手法が成功している一例がアルコール商品である。日本酒をベースとした女性にも飲みやすいカクテルが流行しているのだ。

 その代表が「カイピ酒」だ。これはブラジルの東山農場(TOZAN)が仕掛けた日本酒をベースにしたアルコールである。

 「カイピ酒」はアルコール度が低く、女性も飲みやすいお酒としてお洒落なバーに置かれている。筆者は学生時代ブラジル料理店でアルバイトをしたことがあるが、ブラジルのカクテルといえば、さとうきび焼酎をベースとした「カイピリーニャ」である。カイピ酒はこれを日本酒で割ったものだ。

 このカクテルを生み出した東山農場は、三菱グループの創業家である岩崎家が朝鮮半島、台湾、インドネシア、マレーシア、ブラジル、日本(小岩井農場)で行っていた農業事業から出発した歴史を持っている。日本の敗戦後、台湾などの事業は手放さざるを得なくなり、残った海外の農場がこの東山農場(TOZAN)というわけだ。

 東山農場と「カイピ酒」の事例が示すのは、日本とブラジルの深いつながりである。日本酒のカクテルがヒットするのも、両国が積み上げてきた歴史の土壌があるからだ。しかし、親日的なブラジルからのラブコールに対して、日本側の取り組みは驚くほど限定的だ。

 例えば首脳外交を見ても、この10年間でブラジルを訪問したのは小泉純一郎元首相のみ。それ以外の首相は、まずは欧米か中国を回り、ほかの国を回る前に政権交代、という次第である。短命な政権が続いているとはいえ、ブラジルまで手が回っていないのが実情だ。

 これは政府レベルだけでなく、企業においても同様だ。日系の大手メーカーの現地駐在員からも「役員クラスが頻繁に現地に出張するようになったのはようやくこの数年になってから」という声を聞く。

●投資の魅力度は高いけど…

 国際協力銀行海外投資研究所の調査によれば、ブラジルの投資魅力度はここ10年で10位から5位(2011年度)へとその注目度を上げている。その一方で海外進出企業総覧によれば実際の日系企業進出数は321社で第18位(2011年)。ほかのアジア諸国に比べると低いのが現状であり、意識と実態の乖離がある。

日本企業の進出希望国と国別進出数

 進出が進んでいないのは、 日本側の消極的姿勢による。 その結果、日本企業や日本製品が受け入れられる余地がありながら、事業機会を取り込めていないようにも見える。

 一方で、韓国勢の猛攻はすさまじく、街を歩くと、サムスンやLGの看板があふれ、国民的スポーツのサッカーの強豪チームのスポンサーも韓国企業である。テレビCMでもサムスン、LGを見ない日はない。大型の家電量販店やカルフールで買い物をしても、これらの企業の製品がずらりと並んでいる。

 他方、日本の電機メーカーは押されるばかり。現地のコンサルタントは「広告宣伝費や人員投入量で見ても、日本勢各社は韓国勢の10分の1程度。陳列棚の商品数を見ればその差は歴然」と嘆く。日本企業の事業展開は「小出し」。大規模かつスピーディーに投資をする韓国勢とは差がある。

 日本企業の「小出し」戦略ではせっかくの巨大消費市場を捉えることは難しい。

 A.T. カーニーがグローバルで実施している「新興国小売市場の参入魅力度調査」では、ブラジルの小売参入魅力度は第1位。実際、ブラジルの購買力たるやすごいもので、先進国と変わらない最新の電化製品が大型量販店で飛ぶように売れていく。また、スーパーマーケットの品揃えも、私が長く生活をしたフランスのパリとほとんど変わらない。陳列も洗練されている。

 この買い物性向はもちろんラテン的な陽気な性格もあるだろうが、過去のインフレの歴史が大きく影響している。

●ハイパーインフレが生んだ旺盛な消費性向

 過去にはインフレ率が年率1000%近くに上ったという話もある。街で聞けば「朝と昼でスーパーの値段が違った。買っているそばから値札が張り替えられたこともあった。だから貯蓄をするという発想はあまりない。とにかく借りてでも、消費する。インフレが起きればすぐに返せるさ、という考えが根本的にある」といった次第だ。最近の景気減速で、フォルクスワーゲンや現代自動車の自動車ローンのデフォルトなどが顕在化しており、企業にとって必ずしも全てがハッピーと捉えられない面もある。しかし、ブラジル人の基本的な消費性向が大きく衰えることはないだろう。

ブラジルのインフレ率の推移

 こうした旺盛な消費性向もあって、特にブラジルの都市部は、「新興国」「途上国」といった言葉でひとくくりにできないニーズと市場が広がっている。しかし、このような状況を「小出し」の日本企業がどこまで肌感覚で捉えられているだろうか。

 サンパウロの中心部を歩くと、人々はまるでロンドンやパリで見るようなスマートなスーツを着こなしている。女性はラグジュアリーブランドのバッグを手に通りを闊歩する。

 言葉はポルトガル語が中心ではあるものの、英語も聞こえてくる。世界中のビジネスパーソンが高級ホテルで商談をしているのを聞くとよく分かる。また、街角には、フランスの家電販売店兼書店 FNAC (日本の「TSUTAYA」に家電販売が加わったようなハイセンスなお店) まである。右にはルイヴィトン、左にはティファニーといった高級ブランド店があり、ちょっと先にはフェラーリのショールームもある。ZARAのような洗練されたファストファッションからラグジュアリーまで充実しており、一大ファッションストリートだ。

 ファッションだけではない。先述のパウリスタ大通りに立つサンパウロ美術館のコレクションには目を見張る。モネ、ルノワール、ピカソをはじめ、錚々たる画家のコレクションまで所有している。さらに、現代アートに対する造詣の深さもうかがえる。

 それもそのはずで、ブラジルはデザイン分野でも有名だ。例えば、建築分野では日本の国立西洋美術館をデザインしたル・コルビュジエと共に活躍したオスカー・ニーマイヤー氏がいる。 首都ブラジリアのデザインのニューヨークの国連ビルのデザインで有名なニーマイヤー氏は、現在104歳で今も現役。98歳で再婚する等、プライベートでも精力的である。また、サンダルの「アバイアナス」も世界的に有名なブランドだ。

 ブラジル第2の都市であるリオデジャネイロに向かうと、デザインやファッションに対する観点がサンパウロとはまた違っていて面白い。何しろ、肉体に対する美意識がもの凄く強い街なのだ。

 リオを歩くと良く分かるのだが、あちこちにスポーツジムがある。気候が1年を通じて温暖だから、今年のNYコレクションで「Multicolor revolution」としてインパクトを与えた、「オスクレン」というブランドに代表されるように水着などの軽装ファッションが中心だ。そのため、会社で仕事が終わったらジムで体を鍛えるのが一般的だという。

 「モテる」ためには、何を着るかが問題ではなく、体そのものがファッションだという考え方だ。 ビーチを歩くと鍛え抜かれた肢体の美男美女によく出会う。これもお洒落の一環というわけで、何ともブラジルらしい文化とも言える。

●ブラジルが持つ米国への「対抗心」

 このような多様なブラジルの消費者ニーズをくみ取る努力においても、日本企業と韓国企業には差が見られる。例えばサムスンは、現地に社員を送り込んでも、一年間は仕事をさせず、文化などを徹底的に吸収することを求める。一方、日本企業の多くは昔からの駐在員を置いたままだ。

 ブラジルの若者に話を聞くと、「日本製品が良いとは両親からよく聞く。でもサムスンやLGの方がお気に入りのサッカーチームのスポンサーだし、広告も多い。イメージもカッコいい」と言う。これは現地に溶け込み、潜在的なニーズを掘り起こしているかどうかの差だと言える。

 組織の面で見ても、日本企業では「米州総局」の下にブラジルを置くケースが多い。本社から直接マネージしていないため、ブラジルを始めとする中南米諸国の正確な現状を、把握できていないこともあるのではないか。

 そもそもブラジルでは、同じ「米州」としてくくられる米国への対抗心をよく耳にする。ブラジル人のあるコンサルタントは言う。「マクドナルドとコカ・コーラ、アップルの素晴らしさは分かるが、北米式の経営と南米の経営は違う。実際に量販店を見てみればいい。成功している米国企業がどれだけあるか」。

 ブラジルには、「ブラジルコスト」といわれる複雑な税制度や商慣行の違いもあり、簡単にビジネスが進められないのも事実である。実際、自動車の輸入関税は日本のFOB価格(FOBは貿易取引条件の一つ。荷積み時点の価格)を100とすると最終通関までに35%税金が上乗せされ、現地の販売手数料などと合わせると、トヨタのカローラは現地で500万円近くする高級車になっている。

 また、税金だけでも、工業製品税(IPI)、商品流通サービス税(ICMS)、社会保険融資負担金(COFINS)、社会統合基金(PIS)など様々なものがあり、複雑である。しかしながら、ブラジルが日本に寄せてくれている親愛の念を考慮すると、日本側が経営の姿勢を変えることにより、新たな事業機会を得る余地は思った以上にあると言ってよいだろう。

●「新興国に学び、共に歩む」という覚悟が不可欠

 ここで重要なのは、ラブコールを送ってくれている親日国の市場にきちんと目を向けるだけでなく、その新興市場からグローバル経営を学ぶという「視点の転換」が必要なことだ。そのためには、(1)現地への本気のコミット、(2)大胆な投資、(3)長期的な取り組みの3点が不可欠になる。

 1つ目の「現地へのコミット」を語る上で、こんな話がある。ブラジル経済が苦境に陥った1980年代中盤から90年代中盤にかけて、日本政府は旧日本輸出入銀行(現国際協力銀行)などを通じ、資金還流計画等でブラジルを支援した。このことが、20年経った今でも、ブラジル政財界の重鎮から好意をもって語られることがある。恩義を大事にする品位ある国だと感じるエピソードだ。「苦しい時の友こそ真の友」ではないが、こうした姿勢と実際の行動は、国家レベルの外交だけでなく、民間企業の経済活動においても重要なベースになろう。

 2つ目の「大胆な投資」については、最近成功を収めている韓国勢の例を見れば明らかだろう。

 さらに、ブラジルの諺には「Quem espera sempre alcança(待つ者は常に成し遂げられる)」というものがある。日本で言えば「石の上にも三年」ということだが、長期的取り組みの大切さが現地でも強く認識されている。

 これらの視点を踏まえたものに、三井物産の例がある。同社は数十年にわたり、ペトロブラスやヴァーレ(資源開発会社)との信頼関係を築いてきたからこそ、ブラジルにおける資源分野での成功がある。世界市場に挑戦する新興国発の企業と「共に歩む」という姿勢が、グローバルビジネスを進める上での大きなポイントになるかもしれない。

 よく「新興国参入戦略」や「BRICs戦略」という言葉を目にするが、実態は「発展途上国参入モデル」から脱却していないケースが多い。言葉は変えても、マインドセットが追いついていないのだ。インフラが整備されてから投資をするとか、過去日本で成功した事例をそのまま持ち込むといった議論は、所得が低いことを前提にした「発展途上国参入モデル」である。しかし、サンパウロ等の都市を見れば、消費の実態はいわゆる発展途上国のそれとは大きく異なることが分かるだろう。

 急成長する市場では、大胆な投資をスピーディーに行えるかも勝敗の分かれ目となる。日本企業も新興国に「参入」する戦略ばかり考えるのではなく、新興市場のビジネスから学ぶ「リバース・マネジメント」や、「新たなマーケットセグメントの把握」など、戦略そのものを異なる視点で捉え直す必要がある。つまり、所得水準の変化等だけをみて、「うまみのある」機会を選り好みする姿勢や、儲かりそうにないからすぐに投資を抑制するという「ブレた」態度では、結局、足元を見られてしまう。これは人間関係と同様だ。重要なのは、現地企業の成功に学ぶ謙虚さや、現地の価値観や嗜好の変化などに十分に目を凝らし、長期的にコミットし、市場を創造していくこと――。つまり、「共に学ぶ」パートナーとして、共に歩む覚悟である。国と国との付き合いとはそういうものだと思う。

 次回は、ブラジル以外の中南米経済の見方とそのパワー、参入する上での視点などに触れてみたい。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120913/236777/