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ブラジル戦は「悲劇」だったのか 宇都宮徹壱の日本代表欧州遠征日記


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先日のセレソンvs日本代表戦の日本側の振り返り記事。僕もその後試合を見ましたが、確かに思っていたより日本は良かったように思いました。ま、ブラジルにはさすがに今後もかなわないと思いますが。

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■ブラジル戦は「悲劇」だったのか 宇都宮徹壱の日本代表欧州遠征日記

●6年ぶりのブラジル戦に高まる期待感

 ブラジル戦当日。ヴロツワフは夜明け前からずっと小雨が降り続いていた。サンドニでのフランス戦に続いて、またしても雨中での戦いとなるのは、ちょっと残念。薄手のダウンジャケットの上に完全防水のコートを羽織って、トラム乗り場に向かう。中心街からスタジアムまでは、トラムでおよそ20分。ウイークデーの午前ということもあり、車内は通勤・通学の客でごった返してしていた。しばし時間があったので、過去のブラジル戦の資料に目を通す。日本とブラジルの最初の国際Aマッチは、1989年7月23日にリオデジャネイロで行われた。以後8試合を戦い、結果は日本の0勝2分け6敗。05年6月22日のコンフェデレーションズカップ(2-2)のように善戦した試合もあったが、基本的に日本にとってのブラジルは、ずっと仰ぎ見るような存在であり続けた。

 日本が最後にブラジルと対戦したのは、2006年のワールドカップ(W杯)ドイツ大会。コンフェデ杯で善戦してからちょうど1年後の6月22日、会場はドルトムント。すでに決勝トーナメント進出を決めているブラジルに対し、ジーコ率いる日本は数字上ではわずかに可能性を残すものの、絶望的な状況にあった。前半、玉田圭司の先制ゴールで喜んだのもつかの間、前半アディショナルタイムにはロナウドのゴールで同点に追いつかれ、後半には3ゴールをたたき込まれた(特に、ジュニーニョ・ベルナンプカーノの無回転ミドルシュートは圧巻だった)。日本は1-4で大敗。これがジーコ政権下のラストゲームとなり、長年代表を引っ張ってきた中田英寿も現役引退を発表した。

 あれから早6年。その間、日本代表は続く10年南アフリカ大会でW杯ベスト16進出を果たし、海外組がメンバーの大半を占めるようになり、そして親善試合とはいえフランスにアウエーで競り勝つまでになった。今回のメンバーで6年前の対戦を経験しているのは、ブラジルのカカと日本の遠藤保仁のみ(遠藤はドイツ大会では出場機会がなかったものの、今回のブラジル戦で日本代表キャップ数が歴代最多の123となった)。新たな世代の台頭が顕著な両チームの顔合わせに、多くの日本のファンは期するものがあったはずだ。6年前とはまったく異なる、心地よい緊張感と高まる一方の期待感。少なくともキックオフから10分ほどは、ピッチに立つ日本の選手たちも、そしてそれを見守る多くのファンも、ブラジルに負ける気など微塵(みじん)も感じていなかったのではないか。

●前半の2点でゲームの行方は決まっていた?

 実際、先のフランス戦と比べると、日本の入り方は悪くはなかった。この日のスタメンは、けがから復帰した本田圭佑がワントップに入り、右サイドバックが酒井宏樹から内田篤人に代わった以外は、サンドニの時と同じ顔ぶれである。対するブラジルは、攻撃陣にカカ、ネイマール、オスカル、フッキが居並ぶ、現時点でのベストメンバー。W杯予選が免除されているがゆえに、どんな親善試合でも本気モードで臨むしかない。そんなブラジルに対し、この日の日本は序盤から積極的に高いポジションでボールを奪いにかかり、さらにはブラジルのお株を奪うようなパス交換も展開して見せた。打倒ブラジルへの期待は、いやが上にも高まってゆく。

 それでもブラジルは、日本のわずかなミスを見逃さなかった。12分、内田のヘディングのクリアがオスカルの足元に入ると、ブラジルの背番号10は後方から走り込んできたボランチのパウリーニョに横パス。驚くべきことにパウリーニョは、右足つま先でちょんと合わせたようなキックで、豪快なミドルシュートを決めてしまった。リプレー映像を見ると、GK川島永嗣はパウリーニョのシュートに反応しきれていないことが分かる。フランス戦ではスーパーセーブを連発した川島だが、まさかあの位置からモーションなしで打ってくるとは思わなかったのだろう。確かな技術力に裏打ちされた、意外性あふれるプレー。まさにブラジルの真骨頂である。

 もちろん、この1点で日本がひるむことはなかった。失点から3分後には、中村憲剛からのスルーパスに香川真司がゴール前で反応。オフサイドの判定となったが、反撃の機運を十分に感じさせるプレーであった。しかし、すぐにブラジルが主導権を取り戻し、日本陣内でたびたびチャンスを演出。17分にパウリーニョが川島をかわして流しこんだシュートは枠をそれたが、24分にカカがペナルティーエリアに侵入した際にアクシデントが発生。スライディングに入った今野泰幸の腕にボールが当たり、主審はPKの判定を下した(個人的には流してもよいシーンだったと思う)。これをネイマールがきっちり決め、ブラジルは早々にリードを広げた。

 日本が2点のビハインドを負ったのは、昨年のアジアカップ準々決勝、カタール戦以来のこと。この時は、日本は見事に逆転に成功しているが(3-2)、相手がブラジルとなると話は別だ。ザッケローニ監督は試合後の会見で「0-1の状態を続けることで、うちがどういうリアクションができるのか、もう少し見てみたかった」と語っている。残念ながら、この時点でゲームの行方は、ほぼ決まっていたと言えよう。

●流しながらも効率よく得点を重ねるブラジル

 後半、日本ベンチは内田と中村を下げ、酒井宏と乾貴士を投入。内田はあまりにミスが多かったためだが、乾については中盤の構成を変えるためにザッケローニが試合前から考えていたプランであったという。これにより、左の香川が中に入って本田と縦の関係を作り、右の清武弘嗣と左の乾にはエリア内への侵入とダイヤゴナルランが求められた。

 このうち本田と香川の間には、何度か身を乗り出したくなるようなホットラインが生まれたが、清武と乾は本来の持ち味を生かせず、ザッケローニ監督の期待に応えることはできなかった。とはいえ清武も乾も、ボールを持ってこそ本領を発揮するタイプ。フリーランニングで相手の守備をかき回したり、裏に抜けてピンポイントでゴールを狙うようなプレーを期待するのは難しかったように思う。その意味で、今回の遠征に岡崎慎司が帯同できなかったことが悔やまれる。

 むしろ後半の45分は、ブラジルの効率性の高い攻撃に敵ながら感心させられることしきりであった。後半早々にコーナーキックから3点目が入り、日本は一層の前傾姿勢をとらざるを得なくなる。当然、最終ラインの裏側には広大なスペースが生じる。ブラジルにしてみれば、相手に攻めさせてパスミスを誘い、ボールを奪ったら一気にカウンターを仕掛ければよい。しかも敵陣にボールが入った瞬間、必ず3人以上が走り込むことで、選択肢とチャンスの幅をできるだけ広げようとする。後半31分のカカによるダメ押しゴールは、まさにそうして生まれたものであった。この時間帯になると、ブラジルはかなり流している印象を受けたが、それでも決めるところはしっかり決める。

 この日、平日昼にもかかわらずスタジアムに駆け付けた2万6180人の観客も、ブラジルの圧倒的な強さに大いに魅了されていた。ブラジル人サポーターのサンバのリズムに合わせて、何度となくブラジルコールが繰り返される。日本は完全に引き立て役だ。結局、0-4で試合終了。本当は、あと2点くらいは入ってもおかしくない内容であった。

●この敗戦は「新たな挑戦の始まり」である

「ブラジルと初めて戦うことになって、負けて、何か不思議と悔しさ以上に、楽しさというものの方を感じていました。この先、こういう相手を負かすために、また頑張ることができるな、非常に未来は明るいなと。明日からの練習が、また楽しみやなって思えるような試合でしたね」

 試合後のミックスゾーンで本田はこのように語っていた。人一倍負けず嫌いで、なおかつ向上心の強い男ゆえに、今日の自身のプレーには納得できない部分も多々あったはずである。それでも決して負け惜しみでなく、このような前向きな発言が発せられたことを、私は好意的に受け止めたいと思う。この試合をテレビで、あるいはスタンドで観戦していたファンやサポーターも、おそらく6年前のブラジル戦ほどのダメージは感じていなかったはずだ。なぜなら、あの時の敗戦が「ひとつの時代の終わり」であったのに対し、今回の敗戦は「新たな挑戦のはじまり」を予感させるものであったからである。

「2年後に(日本がW杯で)トップレベルに食い込んでいるかと聞かれれば、そう言い切れないところもある。ただ、わたしの考えるとおりに事が進んで、W杯に向けていい状態で臨むことができたなら、ブラジルやスペインといった強豪チームとも対等に渡り合えることができると思う。そのギャップを縮めるために、今後もこうした強豪の試合をどんどん組んでいきたい」(ザッケローニ監督)

 結局のところ、今回の欧州遠征の総括は、指揮官のこの言葉に尽きると思う。現時点での日本は、テストモードのフランスには守備的に戦いながら勝利することもできるが、本気モードのブラジルとオープンな戦いを挑もうとすると痛い目に遭う。いずれも、アジアでの戦いでは知り得なかった現実であった。日本の当面の目標は、W杯アジア最終予選を突破することだが、同時に「世界との差を縮める」ための準備も進めなければならない。今回の欧州遠征は、その端緒としての成果は十分にあったわけで、今日の試合も「悲劇」とか「屈辱」といった言葉で表現するのは、およそ適切ではないと考える。

 日本にとっての次のチャレンジの場は、来年6月にブラジルで開催されるコンフェデ杯である。ブラジル、ウルグアイ、スペイン、イタリアといった列強のうち、少なくとも2チームと真剣勝負できる絶好の機会だ。そして2年後の6月には、いよいよW杯本番を迎える。2年という月日は、瞬く間に過ぎ去ってゆくことだろう。その間にザッケローニ率いる日本代表は、どれだけ成長を続けることができるのか――。

 今回の欧州遠征が、日本代表にとっての歴史的ターニングポイントとなることを切に願いながら、当連載を終えることにしたい。最後までお付き合いいただき、有難うございました。

http://sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/japan/2012/text/201210170004-spnavi.html